中国、トランプ、安倍 |
中国メディアは安倍首相訪中を、実際にはどの程度の扱いで報じていたか 谷崎 光 2018/11/07 06:00 谷崎 光 作家 似非の作家が氾濫している中で この人は、作家と認めたい 感受性、素直さ、我田引水しない姿勢 新聞記事等は、見出しのみ、中身は数値を知りたい時だけ 通常は,他者の投稿を丁寧に読むことはないですが 谷崎さんのものは読みました 立ち位置の違いはあるけれど 教えられる情報が多いです 納得しない部分は 谷崎さんは触れていないけれど 米の個人情報の集積は、はるかに中国を超えるはず 日本も、中国には決して劣らないであろうこと 転載 安倍首相は日本の首脳としては約7年ぶりに中国に公式訪問した。そこで感じた日本と中国の報道の乖離への違和感、現地中国での状況について、リポートする。(中国在住作家 谷崎 光) こんにちは。北京在住18年目になる、作家の谷崎光です。 10月25日から27日の安倍首相の訪中は無事に終わった。 まずはそれをお祝いしたい。 しかし北京の住人としては、日本のメディアの報道と、中国の報道との乖離に、かなりの違和感があるのである。 安倍首相が中国に来ているのに習近平は広州にいた まず、安倍首相が北京に来た10月25日の木曜日。 この日の午前中、習近平は広州の中国人民解放軍南部戦区(軍の管轄エリア。中国では5つに分けている)の司令部にいた。 今回、安倍首相の訪中は最初23日から25日に設定されていた。それが中国からの申し出で、今回の25日から27日になった。 日本の首相が北京に来ているというのに、テレビでは迷彩服姿の習近平の広州の軍での映像がガンガン流される。 例えば、安倍氏訪中初日の夜の新聞聯播(日本のNHKの夜9時のニュースに当たる)では、トップニュースは、習近平の広州&その周辺の訪問である。 世界最大のエアコンメーカー、格力の工場に行き有名な女性社長の董明珠と懇談したり、農村を訪問したり。 それ、急ぎますか?という内容で、そもそも習近平の23日の港珠澳大橋の開通式典出席も、橋は走って逃げないから(あ、親父ギャグですね)、いくらでも変更できただろう。 2本目も習近平のニュースで、アナウンサーがうるさいほど、シジンピン、シジンピンとくりかえす。そういう習近平ワンマンショーのあと、李克強の話になり、安倍首相訪中は4番目にやっとちらりと出てきた。 しかも、安倍氏が画面に写っている時間は非常に短い。 2日目の新聞聯播のトップニュースは、やはり習近平の前日25日の広州の軍エリア訪問から始まった。 迷彩服を来た習近平が、南部戦地のコントロールセンターでテレビ会議をしている。 軍にいる習近平は、普段よりイキイキしている。 その後やっと安倍首相と会う映像になった。横長の部屋で窓をバックに話す習近平はとにかく偉そう。ドア側に座らせられた安倍氏はどこか落ち着かないような様子。 あとは安倍氏と李克強との式典や共同記者会見の様子も移されたが、全然トップニュースではない。 ネットのニュースでの扱いは私が見る限り、”普通”である。どちらかというと経済の利を訴えたものが多かった。 かたや日本のメディアを見れば、「わが国の首相がこんなに中国で高待遇を……」の連発である。 “仕事”してんなぁ。 習近平は日中平和友好条約締結40周年の記念レセプションにも出ず、ODAの終了にせめて一言挨拶(あいさつ)をするわけでもなかった。 昨今のイノベーションブームの中国のこと、広州はロボットのニセ習近平だった……、という可能性は否定できないが、ちなみにトランプが中国に来たときは、到着の日に習近平夫婦が自ら故宮を案内している。それも“超特別バージョン”でという、「スペシャル待遇」だった。 もちろん、アメリカにそこまでしたのに輸入制限をかけやがって……、というほど中国は子どもではない。単に官僚4000年の国、“扱い”でいろんなことをアピールすることに長けているのである。 日程の最後の最後に設定された習近平との会談 ここで安倍氏の北京でのスケジュールを見てみよう。 写真は安倍氏ご夫妻が宿泊した、北京の長富宮飯店のプレスルームに張り出された予定表である(当日の夕方6時頃。これはなかなか面白いので、もし画像が転載されていないサイトで読んでいる方は、ダイヤモンド・オンラインで見てほしい)。基本的にこの後、大きな変更はなかった。 中国では、北京首都国際空港で、中国側の誰が出迎えたかもけっこう重要なファクターなのだが、中国の到着映像報道では、中国側が映る瞬間にカットされ、はっきりしない。 安倍氏ご夫妻は、当日、午後4時頃、ホテルに到着すると、従業員が並んで拍手する赤絨毯(じゅうたん)の上を歩いてエレベータまで進んだ。後ろには、お供の日本人官僚の長い列が続いた。従業員たちは安倍首相到着まで何度も拍手の練習をしていた。 それから移動して、李克強との懇談や写真展参観、日中平和友好条約締結40週年レセプション、李克強との私的晩餐会出席などで、この初日に習近平の姿はない。 午前中に広州にいた習近平がこのとき、北京に戻っていたかどうかはわからない。 2日目は、朝から栗戦書全人代常務委員長との会談(人民大会堂)、その後、同じ場所で歓迎式典、あの並んだ兵隊の前を歩いていくやつである。 ちらりと映る天安門と“君が代”をバックに、李克強と歩く安倍総理の映像を見てちょっと感激したが、トランプのときはもちろん習近平が一緒に歩いた。 その後、また李克強と会談、署名式、共同記者発表、第三国市場協力フォーラムと続き、李克強の昼食会に出て、市内からはけっこう離れた北京大学で学生と交流した。 この時の安倍首相は、非常に疲れて見えた。思わず、相手を疲れさせて交渉を有利に持っていく中国4000年の伝統を実行かと思ったぐらいである。 ここを離れたのが夕方の4時ぐらい。 そして、安倍首相がついに念願の習近平と正式に会談したのは夕方の5時半すぎ、すなわち最終日の最後の夕方である。 これは何を意味するか。 まず、それまでに話がつかなかったら、習近平は安倍首相に会わないということである(少なくとも公式には)。 実際に、安倍氏訪中前のロイターの記事では、安倍氏の中国滞在延長の可能性について触れている。 広州での習近平の“じらし”対応も、私は人民への「中国様は日本の首相ぐらいでジタバタしない」というアピールかと思った。 しかし、内部に詳しい人に聞くと、 「いや、それもまったくないとは言わないが、まず間違いなく内部で何かがあって、その調整でしょう。習近平と李克強がいつも意見が一緒というわけでもない」 大権力を手にし、この世の春に見える中国の中央官僚たちだが、彼らは彼らで、“中央にいるのは牢屋の中にいるようなもの”だそうである。 日本国旗焼却計画と見事なまでのネット規制 日本の国旗を燃やそうとするグループがいて、政府が事前に取り押さえたと、などという“噂(うわさ)”も聞いた。北京に長い私からすれば、正直、「そりゃ、いるだろう」という感じである。 しかし、以前ならこういう噂があれば、ネットやSNSで、少なくとも、“その噂が本当にあるのか”は確認できた。 ネットはガセネタももちろん多いが、それなりに整合性のある話も出てくる。 が、今回はダメだった。 そもそも私のスマホも、安倍氏が来た日の朝、なぜか突然、OSが更新され(普通は再起動しないとできない)、日中切り替えの、日本語が打てなくなっていた。 たまにそういうことはあるので、設定を変えたり、日本語入力ソフトをダウンロードしてみたりとありとあらゆることをやったが、ダメ。 さらにツイッターが突然、映像、写真、文字投稿まで一切できなくなっている。 スマホには壁越えソフトを入れており、前日まで全部まったく大丈夫だったのに……である。 私は安倍氏のホテル到着の取材に行った。せっかくだしこれはツイッターでライブデビューかしら、と、自撮り棒まで持っていったのに、ホテルのロビーで、日本語も打てなければ、文字すらも送れない始末。 朝、気が付いていたのだが、慣れているし出かける途中ですぐ直せるだろう、と、タブレットすら持ってこなかったのである。 中国様、やっぱりAIで私の心も行動も、読み取っているのかもしれない(泣)。 さらに夜、ネットで中国の安倍首相訪中の記事を見てみた。すると2~3日前まで、昔ほどではないが、やっぱり露骨な罵りコメントがたくさんついていたのに、きれいに消えている。 で、コメントの数がありえないほど少ない……。残っているのは、日本の首相の来中を歓迎するものばかりである。「我々は手を取り合って共に利益を!」「忘れちゃだめだよ。日本は中国が経済発展するときに、資金融資をしてくれたんだ」。 中国、コエー(泣)。 おまけにその後、知らぬ間にスマホに、中国版のクローンソフトがダウンロードされていた。 (え? こんなのあったっけ?) タップすると、「あなたの携帯のクローンを(他の携帯に)つくることに同意しますか? 」とインストールの許可を問う質問が出てきた。速攻で削除した。 ちなみに中国では、悪質なショートメールを受け取ると、それを開くだけで、相手に携帯の中身が全部コピーされる。 中国人の友人とウイーチャット電話でしゃべっていたら、“台湾”と言ったとたんに、切れたりもする。単に映画の話だったので、おそらく音声AIが管理をしていると思われる。いや、盗み聞きされているのかもしれないが……。 ちなみに“台湾”は中国にとってはセンシティブな問題で、メールで台湾の文字が入っていると、そこだけ文字化けしたりもする。 ……私が日本の友達に聞いた台湾の美味しいお店は、やはり中国の国家機密なのだろうか。 今、中国はIT管理が凄まじい。 今回は、その実力を見せつけられた気がする。 実はこの原稿も、メールが不達で遅くなった。ちょっと間が空いているのはそのせいである。 ちなみに、現在は安倍氏が帰ったのと、ちゃんと対策をとったので、いろいろ復旧している。 ちょっとがっかりの北京大学交流会 交流会は、北京大学は舞台の後ろの表示も「日本首相安倍晋三閣下北京大学座談会」と、普通はありえない“閣下”を入れて、かなり気を使っていた。 学生の質問も「日中の戦略的互換関係にはどうやったらうまく行きますか」「イノベーションの成果について」など、首相が“かっこいい答え”のできるものばかり。媚びてはないがよく練った質問が準備されている。 しかし安倍首相の答えはかなり残念であった。 「アベノミクスの成果についてご説明ください」という女子学生の質問に、 「税収も必要で経済をもっと成長させてないといけない。この6年間は女性の皆さんの力、充分に活用されていなかった女性の皆さんがより働きやすい経済社会をつくって日本は成長できた」 それ、ウソやで……。 さらに続きは、これからは65歳以上の方々に働いてもらうというもので、事実上、家事と育児を一手に請け負っている日本の女性と、日本をこんなにダメにしたジジイたちをさらに“活用”するという、中国人の学生でなくても、それがアベノミクスの成長力か、と思う回答である。 中国の女子が質問したので、こう答えると喜ぶと思ったのかもしれないが、中国はこの学生たちにとって、ひいおばあちゃんの時代から共稼ぎの国である。中国の“女性活用”は、歩いたり自転車で通えるエリアの国営企業単位に、国が全部、託児所をつくるところからスタートした。 それの良しあしではなく、中国は現実的なのである。 今はそれもなくなり大変だが、仕事の上での男女平等は比べものにならない国なので、はあ、そうですか…みたいな。 女性が「活用」されただけで喜ぶ“だろう”と男性が思っているのは日本だけである。 別に粗さがしするわけじゃなくて、前も日本の首相が北京大で講演したとき、同じテーマでやらかしていた記憶がある。 仕事の男女平等に理解がある?ようなことを、言えば言うほど日本の“実態”を晒してしまう。うーん、えらい人のこの現実とズレた感覚。「これぞ日本」である。 北京大の学生は、話がうまいとか下手とか、そういうことは気にしない。それよりもっと“本質”を見る。知能が高いのでつまらなくてもバカにしたりはしないが、日本に興味を失う。 今回の学生の質問は間違いなく、事前に日本のアテンド側に行っているはずである。アベノミクスについて、本当のことが絶対言えないにしろ(泣)、この対応が今の日本の実力なのだろう。誰がやっても大変とは思うが。 中国との交渉の内容については、すでにたくさん報道されているだろうから、割愛する。 今回、初めてナマ安倍首相を間近で見た。一時間近くの質疑応答というのはかなりその人を晒す。 私の感想は、彼は“人形”である。私は特に強い政治的信条はないので、見たままの感想である。 軽くて、いろんなデータをインプットされると、その通りに動いたりしゃべったりする。 普通の日本のおじさんレベル以上に、特に自分のこの国をこうしたいとか、豊かにして国民を幸せにしたいと思っているようには私には見えなかった。 そしてインプット通りに、中国と一緒に一帯一路開発で日本製品を売るように働くのだろう。 夜に天安門広場エリアに行ってみた。顔認証とパスポートチェックを受けて中に入った。夜空にはためく日本国旗と中国国旗。 今回、安倍氏の訪中は、中国人の間ではさほど、話題にはならなかった。 北京大を歩く学生たちにも話を聞いたが、日本の首相が自分の大学に来ていることを知らない学生も複数いた。トランプだと悪役だが、そんなことはないだろう。 日本のこれからの課題は、もう中国に勝った、負けたではない。今後、いかにこの国に飲み込まれないか、である。 これからの日本は中国の傘の下で歩んでいけばよい、という人が時々いるが、私は反対である。 どこの国も大きくなればなるほど、強権化し貧富の差は広がる。小競り合いを起こしながらも、小さな国がたくさんあるのが幸せではないかと思っている。 ◎谷崎 光作家、(株)ダイエーと中国の合弁商社勤務後、作家に。近刊は『本当は怖い 中国発イノベーションの正体』。松竹で映画化された『中国てなもんや商社』(文藝春秋)、『日本人の値段』(小学館)など著書多数。2001年から北京大学留学を経て北京在住。ツイッターのアカウントは@tanizakihikari |